一般に立体映像には、左右眼に左右映像を分割投影する眼鏡が必要であったり、眼鏡が不要なシステムにおいても、顔の位置や姿勢が限定されたりして、不自由な観察を強いられる。一方、見るものが本当にあるように三次元視空間が再現されているのであれば、観察位置(視点)を変えて見るという操作性(Interactive)が確保され、その視点に応じた像が見えなければならない。
近年、より自由でインタラクティブに観察可能な立体・三次元映像の表示方法が研究開発されつつある。また、見やすく、しかもできるだけ長く観察できる立体表示のために、観察者側に立った課題である視覚上での健康衛生的な観点が必要である。
その中で、どれだけの両眼視差なら立体視が可能かという「輻輳性融合立体視限界」が立体像の観察時の負担を決めるので非常に重要になってくる。この値は個人差が大きく、その人口分布はなかなか実際に測定されていなかったが、今回青年、高齢、若年の3年齢層について報告する。
では、以下の順序でわたくしの本日の講演をすすめたい。
1.自由で、インタラクティブな観察とは
2.観察位置、視線方向の自由な観察に向けて
3.視覚負荷、疲労からの自由
4.今後の展望
参考資料
上記1、2について: 解説論文 長田: 立体三次元映像表示―自由で、インタラクティブな観察を目指して、電子通信学会誌 Vol.85-1, pp.43-48, 2002
上記3について: 長田: 立体映像の観察時における輻輳性融合立体視限界VFSLの分布,日本VR学会論文誌Vol.7 No.2, pp.239-246, 2002
http://intron.kz.tsukuba.ac.jp/tvrsj/7.2/tr7.2.html#no14
上記3の基礎として、Nagata: Chapter 35, How to reinforce perception of depth on single two-dimensional pictures -comparative study on various depth cues-, 1991 Pictorial communication in Virtual and real environments (Edited by Steve Ellis, NASA), Taylor & Francis, pp.527-545,
http://www.eri.harvard.edu/library/nagata_ellis.html
上記4の実施例として、Nagata: The Interactive Multi-view Autostereoscopic Display and Measuring Spatial Dimension for Medical or Heritage Images, Proceedings of the ICAT'02 The international Conference on Artificial Reality and Telexistence, pp.174-175,2002
http://vrsj.t.u-tokyo.ac.jp/ICAT/programDetail.php?pid=4
(※以下、講演用パワーポイントデータからの抜粋)
3Dモデルのときはcollision機能で、位置あわせを正確に得られる。手のモデルと対象モデルとの接触を、手指のモデルの色、変形、さらに実際の指への振動、音響により接触把持実感を得て、操作の安定を確保した(VR学会大会‘97)。しかし、非3Dモデルでは不可能。
最後に夢のような部分についてお話しすると、これからは実際の遺跡の上に立体表示を重ねることにより、そこに昔の映像、すなわち実際にどんな建物があったのか、といったことが再現される時代が来る。また、医学・ミュージアム・図書館といったグローバルな世界で立体像を実用的にやりとりして互いに活用する形が試みられるのではないか。そのためにも、見やすく、長く観察できるレベルの立体像表示の確立、さらにそのためには「融合限界」の人口分布によるガイドラインが必要になってくる。