本日は、お忙しい中「平成18年度3Dコンソーシアム通常総会」にご参集いただき、誠にありがとうございます。
会長を務めさせていただいております、シャープの片山です。総会の冒頭で誠に恐縮ですが、お時間頂戴し、一言ご挨拶させていただきます。
3Dコンソーシアムが発足してから3年間、特にこの1、2年は3Dのインフラ整備が急拡大してきたように思います。
特にアメリカにおいては映画産業において3Dが注目され、技術革新もいまや日本を凌ぐほどになっております。もともとグローバルな展開を目ざし、志を同じくする仲間を求めていったわけですから、拡大に向けての活路を見出すことができるようになってきたともいえるでしょう。
3D市場を考えるに、ハード、ソフト、コンテンツ、この3つがそれぞれ拡大していかないと成長していかないと思います。
このような状況をふまえ、3Dの現状と課題を私なりにまとめたものをお話しさせていただきたいと思います。
映像の歴史を振り返りますと、人類は、古代文明期より絵画や写真などさまざまな表現手法を求めてきたわけですが、わずか100年の間に動画の時代を築いてきたわけです。
この100年を見ても、近年は液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、プロジェクトションなどのハードが進化し、またソフトを管理、表現する手段も進化してまいりました。
その中で、昨年開催された「愛・地球博」でも、多くのパビリオンで立体映像装置が使われ、そのコンテンツ表現の進化とも相まって新鮮な驚きと感動を与えたのは記憶に新しく、また今日の液晶テレビの発展の基礎を築き、昨年11月に京都章を受賞されたジョージ・H・ハイルマイヤー博士も、今後の注目技術として、3Dを挙げられています。
まさに20世紀は動画の時代、そして21世紀は立体映像の時代といえるでしょう。
アメリカでは、ロバート・ゼメキス監督の2004 年の作品「ポーラー・エクスプレス」は、その3D版が非常に高い評価を受け、昨年の11月から再度全米のiMax シアターでリバイバル上映されていますし、また、米国のデジタル・シネマ業界団体「DCI(Digital Cinema Initiatives)」が昨年7月に仕様を決めたことにより、3D方式の上映も可能なデジタル・シネマ上映システムの導入も世界規模で進んでいます。
昨年11月に公開されたディズニー初の長編フルCG作品「チキン・リトル」は既に85館で3D上映され、全米公開第一週目で興行成績第一位となりましたし、今年の2 月にはSony Pictures が「シャークボーイアンドマグマガール3D」を封切るなど、今年も3D作品の上映が連続しております。
昨年ラスベガスで開催された映画興行関係者向けのコンベンションでは、ジョージ・ルーカス、ロバート・ゼメキス、ジェームス・キャメロン、ロバート・ロドリゲス、ランダル・クレイザーなど、著名な映画監督らが「デジタル立体上映に関するシンポジウム」を開催し、「今後の映画産業のカギは3Dだ」と主張しました。
実際、ルーカスフィルムは、スターウォーズシリーズの全6作を3D に変換して順次上映するという計画もあります。
さらに、全米ネットのNBC で、人気ドラマ「Medium」の3D放送が行なわれるなど、放送波でも3D映像配信が行われていることも注目すべき点です。
3D市場の健全な拡大には、人体にもたらす影響を検証するアプローチも大変重要です。
この分野でも、会員の皆様のご尽力もあり、リファレンスとなる重要な指針が策定されつつあります。
その一つ、総務省の委託研究「ネットワーク・ヒューマン・インターフェースの総合的な研究開発(映像が生体に与える悪影響を防止する技術)」では、3D 映像の影響についての調査が行われており、「通常の2Dディスプレイと比べて3D ディスプレイは視覚疲労で有意な差がない」という結果が出ています。
また、むしろ3D映像を積極的に見ることで、目が良くなる、動体視力が上がるなど、生体に有益な効果をもたらす研究も各方面で進んでいます。
加えて、安全なコンテンツの作成には映像制作者向けの指針も重要です。
この観点の研究も進展しており、昨年9 月には、国際標準化機構(ISO)より映像の安全性に関するガイドライン「ISO IWA3」が策定、公開されています。
ISO IWA3 は、国際的にオーソライズされた立体を含む唯一のガイドラインで、安全面で最初に参照されるべき基準となるもので、このガイドラインの中にも立体関連に対する記載が明記されています。
3Dコンソーシアムでは、会員の皆様がより具体的なビジネスに重ねて検討いただけるよう、ISO IWA3 の立体関連部分に完全準拠し、補強した内容の「3DC ガイドライン」を作成しております。本日皆様にお渡ししておりますので、ご確認いただければと思います。
3Dは、ユビキタスネット社会の実現に不可欠なユニバーサル・コミュニケーション技術においても、重要な技術として注目されています。
総務省の「ユニバーサル・コミュニケーション技術に関する調査研究会」が昨年12 月に発表した「最終報告書」には、3次元立体映像によるコミュニケーションが「超臨場感コミュニケーション技術」として挙げられ、「今後、技術が成熟し、情報の伝達や共有により新たな知の創造や社会問題解決が図られることにより、例えば、家族の絆が強まり、立体テレビに興奮し、国際的な交渉がスムーズに展開し、安心・安全に暮らせるといった社会が形成される」とまとめられています。
総務省では、この研究の延長線として「ユニバーサル・コミュニケーション産官学フォーラム(仮称)」を立ち上げる計画であり、3Dコンソーシアムでも積極的に参画する意向を表明しております。
本日の基調講演会で、「ユニバーサル・コミュニケーション技術の研究開発」について総務省竹内芳明研究推進室長にご登壇頂くことになっていますので、大きなプロジェクトの息吹を感じていただけるかと思います。
3Dディスプレイは、「CEATEC」や「FPD International」などの展示会や、各種のフォーラム、学会などで例年話題の的になり、また3Dコンソーシアムが協賛している「立体Expo(立体映像産業展2005)」も好評を博しています。
今年の6月には、産業用バーチャルリアリティ展内に、「3Dディスプレイフェア」が新設されることになり、3Dコンソーシアムも後援することとなりました。
最後に、3D 映像の表現が活かされるマーケットについて分析し、現在の状況と照らし合わせてみましょう。
今回は「公共⇔パーソナル」「娯楽⇔実用」などのデバイスから、3Dが活かされる分野を考えてみます。
3D表現と一口に言っても、その使われる用途によって要求されるニーズが異なるため、表示デバイスに求められる要件も変わってきます。
パーソナル面においては、偏向メガネなしで見られるように、ハードのデバイスを強化していく必要があると思います。
またハード、ソフト、コンテンツの3つの要素が重なっている、映画産業にいたっては、これはひとえに、「偏向メガネ+プロジェクション」という視聴スタイル(ハード)がほぼ確立されているため、ソフト・コンテンツが育った結果と言えるでしょう。
私もハードウエア(デバイスメーカー)の立場としては、まだまだ取り組むべき課題が多いことを痛感しておりますが、その分チャンスの多い分野ということも充分感じております。
技術開発を継続的に進めるよう積極的な対外活動を進め、産業界に働きかけるのも、この3Dコンソーシアムの意義だと考えております。
以上、大変駆け足で市場概況をおさらいしましたが、今年も3Dを取り巻く環境が益々活況を呈することは確実です。
現在私が手がけております液晶テレビにしましても、7年前に「2005年にはすべての世帯のテレビを液晶にする」と目標をかかげ、私自身も本当にそうなるのか疑問をもったものでしたが、現状はまさに液晶の時代となり、いまや65インチサイズのものまで家庭に入る時代になりました。
忘れてはいけないのは、科学技術の進歩はわれわれの目線よりもさらに上に進んでしまうということです。
いまのわれわれの活動は世界と比べるとまだまだ小さい規模のものですが、アメリカのようにコンテンツを扱う人々の夢があれば、技術によってクリアできる「種」はまだいっぱいあると思います。
これらの種を、新しい技術開発によってクリアし、3D市場を一般にも広げる責任がわれわれにあります。
今年度も皆様と一緒に、この3D市場を盛り上げていきたいと存じます。
本年も引き続きよろしくお願い申し上げます。