3Dコンソーシアム -3D新時代“驚きから感動へ!”-
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2003年9月10日
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2003年5月28日
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2003年3月4日
※発言順、文中敬称略
伊東 ではまず、ご出席されているパネラーの皆さんのご紹介からまいりましょう。各パネラーの方には、おのおのご自分の「キーワード」を事前にいただいておりますので、そのキーワードもいっしょにご紹介します。

ステレオクラブトーキョーの大谷和利さん。キーワードは、「個人に3Dの楽しさを」「3Dガイになれ!」「出力機はそろいつつある、次は入力装置」。ゲームプロデューサーの川村順一さん。キーワードは、「空間環境を作りましょう」「メンタルなサポートも大事です」「人材育成も大事です」。早稲田大学助教授の河合隆史先生。キーワードは、「人間工学、ヒューマンファクターズ」「人材育成」「医療等への応用」。日本テレビの曽我有紀子さん。キーワードは、「実写ワーキング、実写3D」「放送、ビジネスモデル」「サーバー型放送、データ放送、通信と放送の融合」。東京大学非常勤講師の深野暁雄さんのキーワードは、「3D、本当に必要ですか、生活が変わるのですか?」「3D、誰もが使えることが大事です」「3Dコンソーシアム、本当に3Dが好きですか?」。なかなかきびしいご指摘ですね。
立体映像産業推進協議会の谷千束さんは、NECご在籍当時、フラットパネルディスプレイの開発をご担当されました。キーワードは「次世代ディスプレイとしての高臨場感ディスプレイに期待」「やるんだったら1兆円産業」。

さて、ここでは深野さんのキーワードを受けて、今日ここにご在籍のすべての皆さんに「3D業務に関わるあなた、あなた、あなた、本当に3Dの可能性を信じていますか? 3Dが好きですか?? 3Dで本当に感動したことがありますか???」…このような問いかけを伺うところから、議論を始めたいと思います。

昨年(2003年)の暮れ、12月16日に、私ども「東京大学学術創成知識構造化研究グループ」は、3Dコンソーシアムならびにシャープ株式会社からもお力添えを頂いて、東大安田講堂でシンポジウム「3D技術が生活を変える」を行いました。その内容は読売新聞全国版で1ページ全面の記事になっています。同じ時期、朝日新聞でも「こんどは飛び出せ3Dブーム」という1ページ全面の記事が出ました。私個人、これら2つの記事に関わって思ったのですが、3Dビジネスに関連される方には、本当に好きで、感動して、ベンチャーとして身代をかけて3Dを事業としてやっている方もいれば、言い方が悪いかもしれませんが、単に業務として3Dに関わっている方もいらっしゃる。いろいろな立場があって当然です。ただ、せっかく3Dコンソーシアムが1年かけてやってきて、技術の進歩もありマーケットの可能性もあるのだから、皆さんとざっくばらんに本音ベースで3Dを議論してみたい。何かが見つかるのではないかということで、今日は準備してみました。では、さっそく始めたいと思います。


「3Dガイ」になろう、3Dの楽しさをわかってビジネスをしよう

大谷 ステレオクラブトーキョーの大谷です。「視覚の冒険をすべての人に」をモットーに、ステレオ写真、映像も動画も含めて楽しもうという愛好家のグループです。現実の世界はまさに3Dですが、それを写真にとったときに生身の目で見たイメージと違う冒険的な感覚を得ることができるというところに、このモットーの意味合いがあります。

ステレオ写真の原理はかなり古くて、人間はふたつの目で見ているから立体視ができるわけですが、それをカメラに置き換えようということで19世紀に大流行したのです。最近では1950年に大きなピークが来ました。インターネットの時代では、裸眼立体視のディスプレイが普及すれば多くの人が立体視を楽しめるので、今まで日陰の存在だったステレオ写真がもうちょっと陽のあたる場所に行けるかなと思っています。その意味で最初のキーワードとして「個人に3Dの楽しさを」を挙げました。

作品はメンバーの嗜好性に基づいているので、撮影対象は大自然の風景から昆虫などのマクロな世界、あるいはモーターショーとか…個人が好きで撮っているということです。二番目のキーワードは「3Dガイになれ!」としましたが、車の世界で「カーガイ」といういい方があります。車がホントに好きで好きでしょうがない人が自動車会社に入って車を作っていると。そういう人がリーダーシップをとっている会社からは、大変おもしろい車が出てくる。それと同じで、3Dのおもしろさをわかっている人達が技術開発したり、コンテンツ開発したりすることで、本当にサーキュレーションというか、そういうものが生まれてくるのではないかと思う。

表示装置は、コンテンツのオーサリングを1回やればいろんなデバイスで同じイメージデータを表示できるようになっていってほしいですね。携帯にもテレビにもマックにもウインドズにもあまねく表示の機会が与えられることを希望したいと思います。それから編集環境の充実。撮った写真を簡単に立体化できるようにしてもらいたいです。 三つ目のキーワードは「出力機はそろいつつある、次は入力装置」といういい方をしましたが、入力装置でほしいのはステレオデジカメです。今はまだそういうものが存在していないので、既存のデジカメ2台使って、シャッターだけシンクロするようなものをクラブメンバーが自作しています。誰もが簡単にステレオ写真が撮れるようになると、次は出力装置も買いたくなるでしょう。

 

伊東 「3Dガイになろう」、「3Dの楽しさを味わいましょう」「3Dを好きになりましょう」ということですね。逆に好きにならないとこのビジネスゲームは損です。インフラはこれから整備しようという段階ですから、モノ作りとか人材育成とかで半歩先に行くのが得策でしょう。


技術やアイデアは、コラボレーションでモノ作りすることで生まれる

川村 デジタルスケープの川村と申します。文化庁メディア芸術祭のプロデュースをしていまして、14年間ナムコでゲームの開発をしておりました。ゲームのビジネスは5年、6年の周期で変わるといわれています。任天堂からファミコンが出て、その後スーパーファミコンが出て、それから94年にプレイステーションが出て、2000年にプレイステーション2が出ました。私は「鉄拳」というゲームを作っていましたが、3Dゲームのビジュアル開発の責任者をしていました。この間、ゲームを作るための技術的な環境、ビジネスとしても大きな変化がありました。プラットホームが変化をしたこともありますけれども、作り手側の環境とか、作りたいものの意識も変わってきたという経緯があります。

そこで新しい技術に、どう興味を持って新しい人材に参画してもらうかの意識付けが、最終的にゲーム製品としてアウトプットされるものに出てきます。クォリティーをあげるためにはどうするか。よりリアルなものにするためには、モデル、ステージのデザインの人材を入れたいということで美術大学を回りました。ファインアートを勉強した人達、人体デッサンとか空間デザインをきちんと勉強した人達をナムコに入れて、彼らがどのような形でアウトプットを出してくるのかを見てきました。

コンピューターの世界でよくいわれるグローバル座標とローカル座標ですが、たとえていえばローカルな座標に基づいた考え方で仕事をやっている人が多く、もっといいやり方とかもっと楽なやり方とかの手法があるはずなのに、隣の席の人同士でもあまり情報交換せずに勝手にやっていることがよくあります。会社の中、組織の中でも自分たちのやり方というのがあって、ゲーム業界の中でもある時点まではそれでもよかったが、だんだんそうじゃないことになってくると、コラボレーションが大事であると私はずっと思っていました。

技術と技術、クリエータとクリエータ、会社と会社、こうしたコラボレーションでモノ作りすることで新しい技術やアイデアなりが生まれる。「潮が交ざるところに漁場がある」といいますけれど、今後も3Dの関わりの中でその仕掛けをしていきたい。

伊東 コラボレーションというお話がありましたが、先ほどのお打ち合わせによれば、川村さんが最初に手掛けられたお仕事は演劇の舞台美術であったとのことですね。

川村 大学時代から芝居をやってまして、文学座という伝統的な劇団の方々とも舞台美術をやりました。その後に蜷川幸雄さんのスタジオでもお手伝いをしましたが、蜷川さんは立体的に観客席まで全部入れて舞台を作るのです。こうしたことは、空間デザインの仕事に大きな刺激となりました。これまでものごとを常に立体的に考えるよう心がけていたので、こちらの3D(立体視)にはものすごく興味がありますね。

伊東 「3D、本当に信じますか?」というのは、「信じなさい」という新興宗教を押し付けるわけではないのです。疑ってみるほうが、あるいは「ちゃちゃ」を入れたほうが、いいビジネスになると思います。

川村さんのお話をうかがってすごくおもしろいと思うのは、「越前竹人形」の水上勉さんや「オイディプス」の蜷川幸雄さんの舞台美術をしてらっしゃった方が、縁あってナムコのゲームセンター、アミューズメントパークという実際の「空間」を演出される。そこから発展して、さらにモニターのなかのバーチャルな空間をどういうふうにリアル感ある空間にしてゆくか、とか、ゲームを広い視野からみて、コラボレーションでおもしろくしていこうとする、川村さんの現在の仕事につながっていることだと思います。


立体映像のコンテンツ不足は、クリエータの制作環境に原因がある

河合 早稲田大学の河合と申します。私の専門は人間工学という、人とモノとの関係を工学的に考えるという学問で、普通はいすの座り心地とか目に見えて触れられる実際のモノを対象としています。しかし私は立体映像とかバーチャルリアリティとか実際に存在していない仮想的なモノ、あるいは次世代に普及するかもしれないメディアを対象として、人間への最適化にかかわる研究をしています。

研究室では主に3種類の活動をしていまして、一つ目は立体映像関連のシステム開発で、これは体験者とかクリエータといった人の視点からモノを作っています。二つ目はコンテンツの制作、キーワードは教育・文化・医療・福祉です。三つ目が立体映像コンテンツの評価で、人間工学的手法を用いて様々なコンテンツやシステムを評価しています。

立体映像のコンテンツ不足の原因としてクリエータがいないから、クリエータがいないのは市場がないからという議論もありますが、私自身は、立体映像のコンテンツが作りづらい、あるいはコンテンツの作り方をイメージしづらいという制作環境が大きな原因になっているのではないかと思っています。 そのため、人材の育成という意味では、立体映像のコンテンツの作り方を教える授業を2001年から早稲田大学で始めています。学生達に教えてみて、クリエイティビティを束縛しない範囲で必要最低限の知識を持つ必要性を感じて、昨年末に2冊の本を出版*しました。立体映像やバーチャクリアリティのクリエータを対象とした実用書ではないかと思っています。

*「次世代メディアクリエータ入門1」「次世代メディアクリエータ入門2」出版社:カットシステム/ISBN:4877831002/価格:2800円


先ほどの講演で、国立がんセンターの中郡先生がお話されていましたが、私は中郡先生と1995年頃から外科の手術教育用の立体映像コンテンツを一緒に作らせていただいています。医療分野、特に奥行き情報が重要なアプリケーションという点では、もともとニーズがあったわけです。最近は、耳鼻咽喉科向けの教材を、ドイツのアーへン工科大学と連携して作っています。インターネットを介してストリーミング配信するタイプのフレキシブルラーニング、次世代のeラーニングの教材をイメージしています。




「コミュニケーション手段」として、3Dコンテンツの生かし方を

深野 私は3Dがすごく好きで、「ウェブ リッチメディア フォーラム」というコンテンツの啓蒙サイトを2年前からやっております。もともとCGアニメーションを学校で教えていたのですけど、それよりウェブ3D、インターネットのコミュニケーションとつながったほうがおもしろいだろうと。そこで生活や人生が変わるようなコンテンツがないだろうかということを考えています。

トヨタ車体さんの「車椅子乗り降り」の3Dコンテンツ、千寿会さんの「くまのぬいぐるみを自分で作る」という3Dコンテンツは、カスタマイズと視点移動があった。3Dのメリットを確認しますと、まず形状がよくわかる、言葉がいらない、視点移動でわかってもらいやすい。仮想的だから現実商品がなくても自由に組み合わせができる。キャドからの利用ができるということ。

結局何がいいたいかというと、コミュニケーション手段として3Dコンテンツを生かしてはどうだろうかということです。3Dというのはやっぱり、R2‐D2なんですよ。立体視というのはあそこまでいかなきゃいけないし、あの夢というのをかなえるべく楽しさと感動をベースに持って作っていくべきではないかと思っています。

(深野氏は予定時間より進行が遅れたため、この時点で都合により退場)


伊東 深野さんがお持ちになったデータで続きをお話しします。事例がいろいろあるのですが、米軍の宿舎のオーダーシステムを見ましょうか。ある兵士が日本に転勤しなさいといわれたとします。宿舎の間取りと同じものを3Dの専門のブラウザで開発している。そこでPCで開いて、配給される家具や家庭用品をこれとこれとこれとドラッグ&ドロップして実際にレイアウトしてみるわけです。基地を移動して目的地で宿舎のドアを開けると3Dで指定した通りになっている。米軍は戦艦、潜水艦の整備に関しても、すべて3D整備マニュアルをデータベースサーバーからやっている。

3Dが生活を変えるというのは、こういう軍事技術から幅広い視野で考える徒判りやすい。 国家がすごいお金をかけて基幹になるエンジンになるものを作っている。テレビやラジオ、インターネットだってみんなもとは軍事技術。そういう、既にある基幹技術を、いかに民生応用に転化してゆくか、がビジネス上のポイントになっています。


巨人戦の実況中継が立体映像になれば、キラーコンテンツになるか?

曽我 日本テレビの曽我です。私は日本テレビに入る前の大学修士の時に、NHK技研のほうで3Dの研究をしておりました。かれこれ10年くらい前になるんですが、NHKがめがねなしの立体ハイビジョンを開発したというときです。これで立体放送が家庭で見られると思ったのですけど、それから10年たちましたが今でもあまり状況は変わっていません。
それはなぜかといいますと、問題点は三つあると思います。まずは安全性の問題です。ポケモン事件がありましたけれど、少しでも問題があるような映像は放送局として流せない、コンテンツの安全性の問題です。これに関してはe‐JAPAN計画の一環として、総務省から影像が生体に与える影響の報告書が出ていまして、安全性のガイドラインとかの動きがあるのではないかと思います。
次に著作権の問題です。著作権に関しては、立体というものに関しての著作権の考え方が未だにないので、立体で撮る場合は著作権者に立体で撮りますよと前もって了解をとらなければいけないと思われるのですが、こうした法整備に対しての動きがまったくないということ。
さらにジネスモデルが確立していないということです。これは3Dとしておもしろいコンテンツ、キラーコンテンツとは何かということが研究開発されていない。たとえば弊社の場合、日本テレビはジャイアンツ戦がよく放送されているのですが、あれを立体にするとおもしろいかどうか。先程もお話がありましたけども、3Dならではのおもしろさというのが何なのかということがまったく模索されていないと思われます。

サーバー型とかデータ放送とか聞き馴れない言葉ですが、今まで電波で出していた放送というものが、通信と融合してまったく新しいような形の放送サービスが開始される。新しい形で立体映像をお茶の間に送ることができるのではないかという考え方です。放送・実写ワーキンググループの活動のひとつとして、データ放送とかサーバー型放送の実際の企画を作っている人を呼んで、どういうサービスが可能かという勉強会とそれを使ってどういうビジネスができるかというような検討を行なえればと思っております。
著作権に関連してなんですが、放送局にはライブラリーというものがありまして、放送が開始されて50年たって、過去の映像が眠っています。これが2D/3D変換技術によって新しいビジネスになるのではないかと。著作権の考え方が難しいですが、2D/3D変換をすることによって3Dの付加価値を考える、そのいい機会になるのではないかと考えています。

放送に関しては周辺技術、たとえばドラマが終了した後、放送では2Dだったかもしれないけれども同時に3D撮でも撮っておき、コアなファンの人には3DのDVDで配布するとか、3Dの部分をブロードバンドで流すとか。またCGとかを使ったアニメの番組は、CGデータを使って3D化するとか。通販番組も立体にすることによって、形状とかテクスチャーがよくわかって、そういうところで3Dが使えるのではないかと思います。
3Dというと視覚だけと思われますが、将来の放送は視覚だけではなく聴覚、そしていろんな形で感覚に訴えるような放送、高臨場感放送というのがひとつの目標になるのではないか。地上波デジタル放送が落ち着いたあと、放送業界は次には高臨場感放送のほうに進むのではないかと考えております。

伊東 先ほどの総務省からの報告書には、安全ガイドラインが必要だと書いてあるのでしょうか? それとも、すでに具体的な安全ガイドラインの内容やヒントが書いてあるのですか?

曽我 今までの研究とか開発をまとめたような報告書になっています。立体の場合でも、たとえば普通のディスプレイで見た場合と携帯で見た場合とは同じガイドラインでいいのでしょうかということが書かれています。そのことについて国から研究委託するということもあるでしょうし、どこまですすんでいるのかわかりません。

伊東 つまり、ガイドラインの全部できあがっているわけではなくて、これから作ってゆくべきだ、ということですね。

曽我 技術だけが進むのじゃなくて、コンテンツも進めなければいけない。コンテンツは作るだけではなくて対人間のところ、評価の部分を考えなければいけないというような報告内容になっています。

伊東 具体的なものが「官」から出てくるわけではないですから、いちはやく「民」あるいは「産」の立場、つまり企業コンソーシアムである3Dコンソーシアムから「このようなものはどうだろうか?」とドラフトを出せばいいと思うのですよ。放送、通販もそうですけど、現実のビジネスですからビジネスモデルのことも考えなければいけない。というところで、谷さんにお話しをお回しします。


日本のためにも、3Dを1兆円クラスの産業に育てる視点も大事

 私は「立体協」の副会長という立場で参加させていただいております。本日の会合に門戸を開いていただきまして、立体協の会員を代表して3Dコンソーシアムの皆様にお礼を申し上げます。簡単に立体協の紹介をさせていただきます。立体映像産業推進協議会は昨年5月に、千葉大学の本田先生が提唱されて発足しています。設立の趣旨は、立体映像が産業になっていないこと。ディスプレイ等のハードウェア、CGなどの画像処理ソフトウェア、コンテンツ作成グッズ、立体映像になると情報量が増えますので大容量の情報を高速で配信するインフラも出現して、環境は整ってきているといえます。にもかかわらず、立体映像はなかなかビジネスにならない。

この原因はなんだろうか、いろんな理由があると思います。ハードウェア、ソフトウェア、コンテンツ、アプリケーションビジネスをやる業界、コミュニケーションビジネスをやる業界の横断的なコラボレーションがうまく噛み合ってはじめて産業がスパイラルに立ち上がっていくはずです。このコラボレーションがうまく噛み合っていないというところに、大きな原因があるのじゃないか。早く立体映像産業をプロモートするために、コラボレーションをやりやすいような出会いの場を作ってプッシュしていこうと。コラボレーションをすることによって立体映像のニュービジネスをインキュベーションしていく。そのお手伝いをするということを趣旨として活動をしているわけです。

私は製造業のNECに昔おりまして、LCD、PDPとビッグな産業になる技術開発をやるところから仕事を始めています。フラットパネルディスプレイ、ディスプレイ全体は、今後ともどんどん伸びていくわけです。現在、LCDだけで3兆円ぐらい、ディスプレイ全体では2005〜2006年には約10兆円の産業になる。これまで日本が世界のディスプレイの工場だったので市場がとれたわけですけれども、韓国・台湾・中国等が伸びてきて、次の産業を変えていかないといけない状況にある。
映像に関してもディスプレイもLCD、PDPとやってきて、ビジュアル情報のカラー化、大画面化の進歩なのです。その先にあるものはなんだろうかと先読みして5〜6年前から考えていたのが、高臨場感映像、あるいは高臨場感ディスプレイというカテゴリーです。
これを産業とやっていくためには、メーカー1社だけではどうしようもない。既存の工業会の中で提案したり、アピールしたり、プロモーション活動したり、そういうわたしの活動の流れの中で立体協の仕事もお手伝いさせていただいている。

立体映像は次世代の映像産業として1兆円なんてものじゃなくて、5兆円、6兆円の売上が楽に狙える。裾が広いし、分野も広い。3Dコンソーシアムには100社以上が参加されていますが、1兆円くらいの産業を作らないと皆さんの会社の金庫にいっぱいお金が入って、みなさんの財布の中にもボーナスがいっぱい入ってということにならない。だから小さなところからすすめることも大切なのですが、日本のためにも1兆円クラスの産業に育てるにはどうしたらいいかという視点でも考えていく必要が大事なんじゃないでしょうか。

伊東 残り時間は15分ということですので、ポイントを絞りたいと思います。まず、立体協さんと3Dコンソーシアムの協力や役割分担について、少し思うところをお話できればと思います。3Dコンソーシアムは立派な大手企業が名を列ねているのに対して、立体協さんはいい意味でベンチャー企業の動きが見えやすい。

技術経営では新規イノベーションが市場でシェアを取るには、ふたつの「困難」な段階があるといいます。第一は、ラボラトリーで作ったものをひととおりの製品にするまでのデスバレイ(死の谷)で、これをどうやって渡るかというとき、大手からいったんスピンアウトしてベンチャーを作ってそこで小さな作りで製品化を図ってうまくゆくことがある。次に、一通り市場にデビューした新技術が過酷な生存競争を生き残る「ダーウインの海」を乗り越える必要がある、というわけですが、うやってマーケットシェアをとっていくかというときには、大手の力が圧倒的に重要になってきます。実際は、うちはベンチャーです、うちは大手ですと分けられなくて、どちらにもタッピングしているのがふつうだと思いますが…。

私は1年間ご一緒させていただいて、既存のいろんなシェアの中で積極的に数を売っていくことを念頭に置いて、3Dコンソーシアムはいい意味で多くのユーザの生活に密接した製品に近いところに関心を置いているような感覚を持っています。逆に立体協さんはベンチャーですから、まったく新しい製品を、まずマーケットにデビューさせよう、というところで、より斬新なものに挑戦できる。双方がいい意味で補いあうような形で連携できるのではないかと思います。

さて、もう1〜2点に絞ってディスカッションにしていきたいと思います。深野さんの米軍の事例がおもしろいと思うので、3Dの通信技術なんかと積極的に結びつけてeビジネスの新しい展開にもっていく、このあたりは曽我さんに大いにお考えがおありだと思うのですが…。

通信で右目・放送で左目を送って、ディスプレイで立体にする

曽我 今度の地上波デジタル放送受信機の後ろにLANの接続の部分があります。たとえばいま当社も参加している地域情報サービスというのがありまして、お年寄りが放送だと思って使ってみてクリックするといつの間にか通信のほうに行ってしまい、通信のコンテンツがどんどん入ってきてテレビでゲームができてしまう。なぜ放送なのにこんなことができるのかなと思いながら今度は地元の会議室の予約までできてしまうと。通信が入ってくることで、お年寄りでも使いやすくなる。そして放送ではとらえられなかったところがとらえられるという新しい面が生まれると考えております。
3Dに関しても、じつは立体放送で見たくない人はどうするのという問題があります。たとえばシャープさんの3Dノートパソコンのいいところは、2Dと3Dが切り替えできる点で、3Dを見たくない人に無理矢理見せなくてすむ。通信で右目だけを送って放送で左目だけを送って、ディスプレイで一緒にすると立体に見えるといった形も考えられるのではないかと。これはすごく初期に考えられたビジネスモデルなのですけど、そういう通信と融合することによって、今まで考えられなかったさまざまなことができるのではないかと考えています。

で、深野さんがおっしゃっていた3Dに関してですが、3Dデータというところと3D表示というところがあって、そこがごちゃまぜになりがちで、3Dデータをどう3D表示するかが難しいところだと思っています。3Dデータから3D表示するときに高い壁があって、3D表示することによって初めて「わーっ、これはびっくり、すごいね」ということになり3Dが生き残れる道があるのではないかと考えております。
で、あのジャパネット高田の事例は見たことがないのですが、3Dデータとしてはクリアされていると思うのですけど、あたかもそこにあるというような思ってもみない表示ができることによって、新しいビジネスと新しい世界が広がるのじゃないかと思います。放送のコンテンツとしても、その壁を超えるための新しいコンテンツとは何かということを探していきたいと考えております。

伊東 ありがとうございます。まあ、現下の状況はユビキタスとかe-JAPANとかいろいろなチャンスが増えてきて、1兆円にすぐいくかどうかはわかりませんが、いいチャンス、転機だと思うのです。お茶の間であれ通勤・通学であれ、いろんなところでポテンシャルユーザーがいて、3Dはそこでの空間の使い方、もっと言えば人間がどう生きるかということとすごく関係あると思う。それを柔軟にビジネスに結び付けてゆきたい。
川村さんにうかがいたいのですが、空間でデザインという観点で、たとえばナムコのゲームセンターをすばらしい空間にしてその中にモニターがあるように、3Dのモニターがどういうふうに入っていくべきかを、今の話を受けてコメントをいただけないでしょうか。

まず楽しめる仕組み作りがあって、気が付いたら技術を楽しんでいると

川村 ちょっと話がそれるかも知れませんけど、1兆円産業という話が出ましたが、わたしは分母と分子という考え方をするのですが、どれだけのユーザーがいて、アクティブユーザーがどれくらいかという話。結局分母としての市場の大きさ、分母を増やすビジネス戦略です。

もうひとつ気になるのは、メーカーとはすなわち技術であって、うちはこれだけすごい技術を持っているのだぞと。自社技術で専用の基盤を作って、その上でゲームを作って、というのがあります。要はインターフェースとか、これがすごいのだぞというのではなくて、すんなり入って楽しめるというのが仕組み作りだと思うのです。で、気が付いてみたら技術をたっぷり楽しんでいる、その技術がなくてはいられないみたいなことになっていると。

伊東 はい、仕切りを超えると何かが変わりますよね。たとえば今テレビ画像が突然白黒になってしまったら、30秒もしないうちに放送局の電話がじゃんじゃん鳴って大変なことになるに違いありません。もし3Dが当り前になってしまえば、市場が3Dで当然と変化しちゃえばそっちにシフトするのですが、そこを越える・越えないは「メーカーの問題」でもあるのですが、より多く「ユーザー側の問題」だと思うのですね。
で、大谷さんにおうかがいしたいのですが、ユーザー側の巻き込みっていうのでしょうか、コンソーシアムの立場でどういうことをやったら短期的、中期的、長期的におもしろいのか、そのあたりのご意見をいただけますでしょうか…。

2Dでは気付かなかったものが、立体視によって見えてくることがある

大谷 そうですね、先ほどの米軍の事例とか今の技術の話とかをからめていいますと、米軍の例やジャパネット高田の例は、先ほど曽我さんがいわれたように3Dデータではあっても立体視ではないですよね。今はそれで成り立ってしまっていると思うのです。実際ジャパネット高田がそれをやって、あるいはWebサイトのバーチャルリアリティでオブジェクトムービーをぐるぐる回して商品がよくわかった、それで売れてますとなると、それをあえて3D化つまり立体視化する必要はない。

ところでおもしろいのですが、立体写真の初心者はみんなパースのきいた写真を撮りたがるんですよ。たとえば長い通路があって、それを立体カメラで撮るわけです。で、どうだというと元々立体感のあるものがその通りに立体で見えるだけなのですね。パースがついている写真っていうのは、2Dで見ても十分立体感を感じてしまうためにありがた味がない。
ところが、土の上に葉っぱがただばら撒かれてあるとか、あるいは河原に石ころが転がっているとかを立体カメラで撮ると、目で見たときには感じられなかった立体感、葉っぱの一枚一枚、石の一個一個が全部際立って奥行きがついて見える。立体視というと立体感を強調した映像をついつい作りがちなのですが、そうでなくて今まで2Dでは気付かなかったものが立体視によって見えてくる、そういうものを写真やCGで表現することも必要でしょう。

それからどうしても3Dというと、未来イメージのものを作ってしまいがちです。とくにCGの場合はありえないものも作りますからね。写真の場合はあるものしか撮れないという制約があるので、逆にそのことを生かそうとしています。今回3Dコンソーシアムで携帯電話を使った3Dコンテンツの配信実証実験を始めるということで、われわれのクラブでも協力させていただいたのですが、江戸の怪談とか不動尊という過去のものを取り上げました。
また、われわれのクラブメンバーの松崎さんは、著作権がうるさい歌舞伎にトライして立体写真を撮っているのですが、高齢者の方がおもしろがって彼の作品を買ってくれるのです。高齢者のマーケットというのも無視できないと思います。つまり単なる未来イメージだけではなく、過去のものも掘り出して立体視していくとおもしろい。あるいは立体視を強調するのではなくて、今まで見えなかったものが見えるような立体視を技術的に追求していくのも、試みとしておもしろいことではないかと思います。

伊東 モバイルやユビキタスに関しては、ユーザーの身体状況であるかとか、まさに人間工学的な問題がダイレクトにビジネスチャンスに関わってくると思うのです。ということで評価とか安全性という話にからめて、人間工学的な観点から河合先生からお話をまとめて頂けますでしょうか。

3Dに懐疑的な人と楽観的な人とが共存して、ブームが去っていく懸念

河合 今、大谷さんがおっしゃった話に少し関連するのですけど、私はすべてのテレビ番組を立体映像にする必要はないと考えます。もともと作り手が2Dで表示されることを想定して作られたものを、あえて立体視する必要はないということです。そういう視点で考えたとき、それでは何を立体で見るべきなのかを考えなければなりません。これまで立体映像は、だいたい10年周期ぐらいでブームになる傾向にありました。この前は多分1992年前後で、そのときもやはり何を立体で見たらよいかを人類が発見できなかったのが「敗因」になったと思います。

立体映像に適したコンテンツというのは、クリエータが試行錯誤し、そこからわれわれの予想もしなかった作品や表現として現れてくるものだと思います。しかしながら現時点では、クリエータに「これがよい立体映像だよ」と見せるお手本もない状況です。その点でも、評価が重要となると思っています。
評価、言葉の定義としては、モノの価値あるいは値うちを決めることです。コンテンツの評価、特に立体映像の評価という意味では、3種類あると考えていまして、一つは作品性や芸術性、二つ目は私がやっている生体への影響、安全性や快適性の評価です。そして三つ目がビジネスモデルの評価ですね。作品としてはよくても人体への負担が大きいとか、売れないとか。こうした目利きができる人、コンテンツを評価できる人がどれぐらいいるのか分からない状況ですね。
これから少しクールにそのあたりを見ていかないと、結局ものすごく懐疑的な人とものすごく楽観的な人とが共存するような状況で、またブームが去っていくような気がして、個人的にはすごく懸念しています。

伊東 ありがとうございます。本日は事前にパネラーの方々と綿密な打ち合わせをさせていただいたのですが、そのことがわたし個人としては非常に楽しかった。というのは、重要な問題を解く鍵というのはあちこちにあるのです。

事業戦略をちゃんとまともに考える上では、平板な「まず結論ありき」式の結論はないほうがいいと思っています。実際、あらかじめ事務局から与えられた「結論」もありませんし、今日は良い意味で結論をオープンにしておきたいと思います。

メディアが多次元化するっていうのはビジネス戦略も多次元化する。そんな具合に、扱う対象とビジネスモデルとをセットにして考えないとだめじゃないかと思うんですね。現在のビジネス情報空間は、ほとんどがビジネス情報「平面」です、二次元で考えます。ということは、時間軸を一次元入れるとあとは一次元しかありません。それは何かというと、たかだか「四半期の収支」で終わりなのです。ここから、長期的見通しを持った立体的なビジネス構造を創出する、というのは、なかなか難しい相談になる。
だから「ビジネス情報平面」じゃなくて、どうやって3Dビジネスというのを構造進化させてやるか、というのが重要な問題になってくるでしょう。

3Dコンソーシアムおよび会員企業各社のますますの躍進と新規ビジネスの開拓のために、ほんとうに役立つ議論につなげていくということで、平板な結論を出すということはせず、立体的な展開へのきっかけになれば幸いです。パネラーの皆さん、本日はほんとうにありがとうございました。お集まりの皆さん、ご静聴ありがとうございました。

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